会社に、家族のことをどこまで話せばいいのだろう
家族の体調が心配でも、普段どおり出勤する人がいる。通院に付き添う日だけ勤務時間を変えたい人もいれば、しばらく仕事から離れる必要がある人もいる。しかし、その事情を職場にどこまで伝えるべきかは簡単に決められない。
2026年10月9日、家族向けコミュニティ「encourage」を運営するベータトリップが、うつ病など精神疾患のある人を支える家族322人の調査を公表した。8月25日から9月7日までのWeb調査で、働いている回答者は275人。そのうち40%は家族の状況を職場の誰にも伝えていなかった。
勤務先に支援制度が「ない、またはあるかどうか分からない」と答えた人は43%。家族のことを相談できる窓口があれば利用したい人は67%。一方、実際に制度を利用した経験者の69%は役に立ったと答えた。制度の存在と、必要な人が制度にたどり着けることの間に距離があるのかもしれない。
この40%は日本の会社員全体の数字ではない
調査対象は精神疾患のある家族を支える特定のコミュニティ会員322人で、全国の働く人から無作為に選んだ標本ではない。回答者のうち配偶者・パートナーの立場が63%、親が23%、子どもが10%だった。したがって日本の会社員の40%が家族の病気を隠しているとは言えない。
また、67%は相談窓口があった場合の利用意向で、実際に相談した人の割合ではない。69%はすでに支援制度を利用した経験者のうち「役立った」と答えた割合であり、275人全体の利用率ではない。43%も制度が実際に存在しない人と、存在を知らない人を合算した数字だ。
それでも、この調査は無視しにくい問いを投げかける。自分の事情を会社に話さないまま働く人がいるとき、会社が整備した介護のための制度や情報はどうすれば届くのだろうか。
話さなかった理由を、勝手に決めてはいけない
会社に話せば評価や職務に影響するのではないか。家族の治療内容を同僚に知られたくない。あるいは、まだ仕事に支障がないので説明する必要がない。理由として考えられることは幾つもある。しかし今回の調査だけで、話さなかった40%の理由は確定できない。
家族を支える働き方も一様ではない。まとまった休業が必要な人、病院への付き添いに数時間だけ休みたい人、まず制度の内容だけ知りたい人では、会社に求める対応が違う。家族の診断名が分かれば自動的に適切な支援が決まるわけでもない。
大切なのは、従業員が何でも打ち明けることを支援の前提にしないことだ。必要な制度を知る機会を持ちながら、家族についてどこまで話すかは本人が選べる。その二つを両立させる仕組みが求められる。
2025年4月、会社には介護の制度を知らせる義務が増えた
育児・介護休業法の改正により、2025年4月1日から事業主には新たな対応義務が生じた。従業員が介護に直面したと申し出た場合、介護休業などの制度、申出先、介護休業給付金に関する情報を個別に知らせ、利用の意向を確認しなければならない。取得を控えさせるような案内は認められない。
また、介護休業・両立支援制度を利用しやすくするため、研修、相談体制の整備、利用事例の提供、利用促進方針の周知の四つから、少なくとも一つの措置が必要になった。すべての会社に専門の相談窓口設置だけを義務づけた法律ではない。
会社が従業員からの申出を待つだけでよいわけでもない。40歳になる時期の法定期間には、介護休業などの制度情報を事前に提供する義務も設けられた。介護に直面する前の情報提供と、直面したと申し出た人への個別案内は別の仕組みだ。
それでも、個別案内の出発点には申出がある
個別の制度周知と意向確認は、従業員が介護に直面したことを会社に申し出る場面が重要な起点になる。しかし今回の調査では、働いている回答者の40%が家族の状況を職場の誰にも知らせていなかった。法制度の手順と人が実際に行動するまでの間に空白が生まれ得る。
ただし、話していない人全員が法的な介護休業の対象者とは限らない。家族に精神疾患があることと、法律で定める常時介護が必要な状態は同一ではない。企業の事前情報提供や職場環境整備の義務は、個別の申出がなくても存在する。
43%が制度の「不存在または不明」を答えたことも、43%の会社が法律に違反している証拠ではない。それでも従業員が支援を必要とするとき、会社の制度が存在するか、どこに相談すればよいかが分からない可能性は重要な問題だ。
精神疾患のある家族も介護休業の対象になり得る
厚生労働省によると、法律上の「要介護状態」とは、負傷・疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態をいう。高齢の親の身体介護だけに限られない。対象家族には配偶者、親、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の親などが含まれる。
法定要件を満たせば、対象家族1人につき通算93日まで、3回に分けて介護休業を取得できる。別の介護休暇は、通院の付き添いや介護サービスの手続きなどにも利用でき、対象家族が1人なら年間5日、2人以上なら10日まで、原則として1日または時間単位で取得できる。有給か無給かは会社の規定による。
ただし、精神疾患という診断があるだけで自動的に休業の対象になるわけではない。家族の介護の必要度や従業員の雇用条件など、個別の法定要件を確認する必要がある。『2週間以上』は家族の介護を必要とする状態についての条件であり、休業を必ず2週間連続で使うという意味ではない。
家族の診断書を一律に提出させることもできない
厚生労働省の事業主向けFAQでは、会社は介護休業の申出に際し、家族が要介護状態であることなどを証明する書類の提出を求めることができると説明している。ただしその書類は医師の診断書だけに限られない。
さらに、就業規則で介護休業や両立支援制度の申出に診断書の添付を一律に義務づけることはできないとされる。これは確認書類が一切不要という意味ではない。必要な確認を、本人に過大な負担をかけない範囲で行うことが重要だ。
仕事の調整について最初に相談する段階と、法定制度の利用資格を確認する段階を分ければ、従業員が最初から病状の詳細を広く伝えなくても済む可能性がある。これは公開資料を基にしたBanseogの実務提案であり、調査で効果が測定された手法ではない。
BANSEOGの視点|支援制度があることと、届くことは別
今回の調査では、働く回答者の40%が職場に家族のことを話しておらず、67%は相談窓口があれば利用したいと答えた。この二つの数字だけで、相談窓口の設置によって公開率や利用率が何ポイント改善するかは分からない。
しかし企業の制度運用を考えるとき、少なくとも四つの段階を区別できる。制度を従業員が知っているか、プライバシーを守りながら相談できるか、対象者が利用できるか、実際の利用が助けになったかだ。申請件数だけでは制度が機能しているかを評価できない。
企業がすべての家庭事情を把握する必要はない。むしろ『家族について詳しく話したくない従業員も、助けが必要になったときにどこへ相談すればよいか知っているだろうか』と問い直したい。制度を整えることと、必要なときに届くようにすることは、同じではない。
BANSEOG VIEW
Banseogの視点 — 制度の存在、認知、利用、効果を分けて考える
職場に伝えない40%と相談意向67%は別の回答であり、申告理由や窓口設置の因果効果を証明しない。
2025年4月から会社は、個別申出時の案内だけでなく職場環境整備と40歳時期の事前情報提供も義務づけられている。
支援が届く経路を整えるために家族の医療情報を広く集める必要はない。本人の選択と個別の法律要件を尊重する。
SOURCES
参照した主な資料
- ベータトリップ — 精神疾患のある家族を支える322人の調査
2026年10月9日発表。コミュニティ会員322人・就労中275人、40%・43%・67%・利用経験者69%の違いと標本の限界。
- 厚生労働省 — 2025年4月施行、介護休業制度の改正
介護申出時の個別周知・意向確認、雇用環境整備措置、40歳時期の事前情報提供。
- 厚生労働省 — 介護休業
2週間以上の常時介護が必要な状態、精神上の障害、対象家族と通算93日・最大3回の制度。
- 厚生労働省 — 介護休暇
通院付き添いなどの活用、年5日・10日、時間単位での取得と賃金の扱い。
- 厚生労働省 — 事業主向けよくある質問
要介護状態の証明資料、医師の診断書添付を就業規則で一律に義務化できない点。
- 厚生労働省 — 労働者向けよくある質問
要介護認定を必須としない判断基準、証明書類の提出と対象の説明。
2026年10月11日時点の公開資料に基づく。ベータトリップ調査は2026年8月25日~9月7日に実施した特定の家族向けコミュニティ会員322人の自発的Web調査で、日本の働く人全体の代表標本ではない。40%・43%・67%は就労中の275人を基準とする。40%が職場に話さなかった理由は確定できず、43%は制度が『ない/あるかどうか分からない』の合計。69%は制度利用経験者のうち役立ったと答えた割合で、全体利用率ではない。2025年改正法では介護の申出前にも事前情報提供や環境整備の義務がある。精神疾患の診断だけで法定休業資格が自動的に決まるわけではなく、常時介護が必要な状態や雇用条件など個別要件が必要。診断書の一律義務化は認められないが、必要な事実確認書類の提出を求めることはある。制度設計の提案はBanseogの独立分析であり、法律・医療の個別助言ではない。