年収は、面接の最後に決まるのだろうか
転職で年収を上げたいとき、最後の条件交渉を重視する人は多い。いくら希望するか、現年収から何%上げるか、いつ条件を伝えるかを考える。
しかし日本の大規模な転職データを見ると、年収の一部はそのずっと前から形成されている可能性がある。
Indeed Recruit Partners Research Centerは、2022年4月から2026年3月までにリクルートエージェント経由で転職が成立した313,485件を使い、転職後の男女賃金差をOaxaca-Blinder分解で分析した。
76.4万円のうち60.4万円は「同じ求人の中での差」ではなかった
転職後の男女の年収差は平均76.4万円で、女性の賃金水準は男性を100とすると84.6だった。
分解すると60.4万円、79.2%は、男女がどの求人・職種・業界・キャリア条件の仕事に移ったかが異なることによる「配置・構成差」だった。
残る15.9万円、20.8%が、年齢・職種・業界・求人の募集時年収など観測できる条件をそろえた後にも残る「評価・処遇差」だった。
最大の単独要因は学歴でも職種でもなく、その求人の「募集時年収」だった
配置・構成差をさらに分けると、最も大きいのは転職が決まった求人の募集時年収だった。分析では募集レンジの下限と上限の平均を使っている。
この要因だけで全体の男女差のうち37.6万円を説明した。男性が決まった求人の募集時年収は、女性が決まった求人より平均で約77万円高かった。
つまり最終オファーで同じ席の人を違って扱う問題を見る前に、すでに異なる価格帯の求人へ転職している差が大きく存在していた。
どの価格帯の求人に入れるかも、これまでのキャリアが作る
募集時年収に続いて配置・構成差を広げたのは、年齢12.4万円、現職が管理職かどうか4.0万円、経験職種3.9万円、現在の雇用形態2.9万円だった。
データでは現職が管理職の割合は男性が女性の約4倍、女性の非正規比率は男性の2倍を超えていた。
これは『高年収求人に応募すればよい』という話ではない。その求人に現実的に入るための管理経験、職種経験、雇用履歴そのものが、それ以前のキャリアで作られているからだ。
Career Experience → Accessible Jobs → Posted Salaryが次のオファーを作る
個人の転職に置き換えると、問いは『次の会社でいくら交渉するか』より前にある。『今の経験で、次はどの年収帯の求人に実際に入れるのか』だ。
今の仕事で持つ責任、マネジメント経験、専門職としての実績が、次にアクセスできる求人集合を変える。その求人の募集年収が、次のオファーの出発点になる。
BanseogはこれをCareer Experience → Accessible Jobs → Posted Salary Range → Final Compensationと見る。交渉は重要だが、交渉前に参加できる市場の価格帯がすでに形成されている場合がある。
高年収層になると、差が生まれる場所はもう一度変わる
研究では転職前年収を低い順にQ1〜Q4の4層に分け、同じ分解を行っている。
最も低いQ1では転職後の男女差12.5万円の67.1%が配置・構成差だった。一方、最も高いQ4では差が45.8万円に広がり、61.5%を評価・処遇差が占めた。
市場全体では『どこへ移ったか』の違いが大きいが、高年収市場では観測条件をそろえた後にも残る部分の比重が大きくなる。キャリア段階によって年収差のボトルネックも変わり得る。
15.9万円をそのまま「同じ仕事でも女性が低い」と読むことはできない
評価・処遇差15.9万円の解釈には注意が必要だ。研究側も、これを直ちに差別と解釈することはできないと明記している。
データでは役職・等級、労働時間、採用時の年収交渉など全ての要因を観測できない。Oaxaca-Blinder分解は観測された差を説明可能な部分と残る部分に分けるもので、残差の原因を一つに特定する分析ではない。
また対象は日本の全労働者の無作為標本ではなく、リクルートエージェント経由で実際に転職が成立したケースだ。比率を日本全体へそのまま一般化することもできない。
今の年収だけでなく、次に入れる求人の価格帯を見る
ある仕事の経済的価値は、今支払われる年収だけではない場合がある。マネジメント責任や希少な職種経験、次の市場でも証明できる実績を積めるなら、次にアクセスできる求人が変わる可能性がある。
もちろん、将来の可能性だけを理由に低い年収を正当化する話ではない。現在の報酬と、そこで得る経験が次の求人市場をどこまで広げるかを別々に見るということだ。
今回の31万件データは、年収形成のこの『前段』を見えやすくしている。
BANSEOG VIEW | 年収の値札は、オファーより前から付き始めることがある
31万3485件で最も興味深いのは76.4万円という平均差だけではなく、その差がどこに現れたかだ。
約8割は配置・構成差で説明され、その中で最大の単独要因は実際に転職が決まった求人の募集時年収だった。
次の転職で年収を上げたいなら、交渉術だけでなく一つ前の問いを持つ必要がある。今積んでいる経験は、次に自分がアクセスできる『求人の価格帯』を上げているだろうか。
BANSEOG VIEW
Banseog View — Career Experience → Accessible Jobs → Posted Salary → Final Compensation
転職後の年収差は、最後の交渉より前に『どの求人にアクセスできるか』から生まれる部分が大きい。
全体では配置・構成差が79.2%だった一方、高年収層Q4では評価・処遇差が61.5%を占めた。
キャリア選択では現在年収だけでなく、その経験が次にアクセスできる求人の価格帯を広げるかも確認する価値がある。
SOURCES
参照した主な資料
- Indeed Recruit Partners Research Center — 転職後の賃金の男女差はどこからくるのか
2026-10-01。リクルートエージェント経由の転職成立313,485件、男女差76.4万円、配置・構成差79.2%(60.4万円)、評価・処遇差20.8%(15.9万円)、募集時年収37.6万円、Q1/Q4の層別分解と解釈上の注意を確認。
対象は2022年4月〜2026年3月にリクルートエージェント経由で転職が成立した313,485件で、日本の全労働者を代表する無作為標本ではない。『評価・処遇差』には役職・等級、労働時間、採用時の交渉など観測できない要因も含まれ、直ちに差別とは解釈できない。Career Experience → Accessible Jobs → Posted Salary Range → Final Compensationは、研究結果を個人のキャリア意思決定へ翻訳したBanseogの分析フレームであり、研究が提示した因果モデルではない。