TSMCが供給企業へ問いかけたのはモーターだった

2026年10月22日、ReutersはTSMCが工場自動化装置にレアアース不使用モーターを採用できるか、供給企業に確認していると報じた。会社の構想を聞いた業界幹部3人に基づく情報であり、協議は初期段階にとどまる。新しい購入規格や大量導入をTSMCが正式に発表したわけではない。

半導体工場ではウエハー搬送や自動化設備の駆動にさまざまなモーターが必要となる。一部の部品が調達できなくなれば保守や設備の稼働に影響が出かねない。ただし対象となる装置やモーターの型式は公表されていない。焦点は代替部品の存在だけでなく、完成装置が従来の性能を保てるかどうかだ。

中国への集中は採掘より精製と磁石製造で大きい

IEAの2026年資料によれば、2024年の磁石用レアアース世界生産に占める中国の比率は採掘約60%、精製91%、焼結永久磁石製造94%だった。ネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウムなど磁石関連の供給網に関する数字で、すべてのレアアース用途に当てはめてはならない。

中国は2025年に一部のレアアースと磁石について輸出管理を導入した。一方で同年10月の拡大措置の一部は11月から1年間停止された。発表と実施の時期を混同しないことが重要だ。鉱山が中国の外にあっても、精製や磁石製造を中国へ依存すれば供給網の分散は限定的になる。

商用のレアアース不使用モーターはすでに存在する

誘導電動機や同期リラクタンスモーター(SynRM)は、レアアース永久磁石を用いずに運転できる。ABBは2026年2月、永久磁石とレアアースを使わないIE6 SynRMの製品群を110~450kWに拡大したと発表した。ポンプやファン、圧縮機など大型の産業用途に向く商用製品だ。

ただしABBのこの製品がTSMCに採用された証拠はない。大型設備用のモーターと、半導体の精密な搬送・位置制御を担う小型の駆動系では出力、サイズ、応答や制御条件が異なる。商用化されていることと、目的の装置に適合することを区別すべきだ。

磁石を変更すると制御系まで変わる場合がある

既存の装置がレアアース永久磁石モーターに合わせて設計されている場合、別の方式への変更でトルク、加速・減速応答、発熱、振動や電力消費が変化する可能性がある。取付寸法が近くてもドライブや制御ソフトの調整が必要となることがある。

精密なウエハー搬送などに関係するなら、位置決めの繰返し精度、応答時間、長時間運転時の信頼性、故障や保守の特性を完成装置で検証する必要がある。これらは一般的な技術上の検討項目であり、TSMCが今回発表した審査条件や特定設備の不具合を意味しない。

材料の調達を改善しても装置の価値が下がることがある

半導体装置は処理能力、精度、稼働率、信頼性、保守の容易さや総費用を同時に満たす必要がある。レアアースを避ける設計が従来の性能を維持しながら供給リスクを下げられるなら、顧客に新しい価値を提供できる。

しかし検証が足りなかったり性能が下がったりすれば、調達リスクを装置の運用リスクへ移すだけかもしれない。今回明らかなのは初期の供給企業への照会までだ。TSMCが義務的な採用条件を設けた、あるいは特定メーカーに発注したという事実は確認されていない。

部品メーカーと装置メーカーと工場では検証の役割が違う

モーターやドライブのメーカーは代替技術の性能、品質、材料の依存先と供給継続性を示せる。装置メーカーはその製品を実機へ組み込み、制御、安全性、繰返し運転や保守性を確かめる。最終的に半導体工場は装置が自社の工程条件に合うか判断する。

つまり部品の代替、装置単位の検証、顧客による採用は別々の段階である。SEMIは装置の自動化や安全について産業標準を整備しているが、これを今回のTSMC専用の新規モーター認証と同一視してはならない。設計を変更しても必要な結果を再現する能力が重要になる。

新規装置の設計と既設装置の改造は別問題

新しい装置は設計段階で別方式のモーターを選び、試験計画を組み込める。すでに稼働している設備では制御方式と機械構造が決まっており、交換時の停止時間、保証、保守手順、再検証が課題となり得る。

既存品を他の供給源から調達する、保守用の予備品を確保する、次期装置に新しい方式を組み込むなど、対応策は複数ある。Reutersの記事はTSMCが新規設備の設計変更と既設装置の改造のどちらを検討しているか明らかにしていない。

レアアースを使わないことだけが答えではない

同等品を中国以外から調達する、別の供給企業を認定する、予備品を備える、あるいはモーターの方式を変更する。それぞれコスト、調達期間と装置への影響が異なる。

IEAは中国以外の鉱山拡大に比べて精製と磁石製造の多角化が遅いと指摘する。売り手の所在地だけでは製造工程の依存を測れない。短期の備蓄は長期の供給停止を完全に解決しない一方、設計変更には開発・検証費用が生じる。部品単価だけでなく停止リスクを含む総費用で判断すべきだ。

日本や韓国の装置企業が準備すべき検証

半導体工場が材料の供給安定性を重視すれば、モーター、制御装置、精密機械、自動化システム、信頼性試験の企業にも新しい要件が生まれる可能性がある。ただし今回の情報だけで個別企業の受注や採用が増えたとは言えない。

装置メーカーが確認すべきなのは、どのモーターが集中した磁石供給網に依存しているか、代替方式で性能を維持できるか、誰が試験と顧客への説明を担当できるか、導入済み装置の保守をどう保証するかという点だ。TSMCの初期調査を、すでに変更された正式な購入基準として扱うべきではない。

BANSEOG VIEW|代替部品の存在と顧客が使える装置は違う

レアアースを使わない産業用モーターはすでに商品化されている。しかし半導体の精密装置で同じ性能が出せることまで証明したわけではない。

代替駆動技術の開発、完成装置への統合と信頼性の検証、半導体工場での採用は、それぞれ異なる段階だ。材料の調達リスクを下げるだけで運用リスクが増えるなら、競争力が高まったとは言えない。

確認されたTSMCの動きはReutersが伝えた初期のサプライヤー調査まで。具体的な機種、発注先や導入予定は未確認であり、実際の試験と採用を見て判断する必要がある。

参照した主な資料

2026年10月25日時点。10月22日のReutersは業界幹部3人に基づいてTSMCがレアアース不使用の自動化モーターを初期調査していると報道。正式な採用条件、契約や広範な導入は未確認。IEAの2026年資料の中国比率60%採掘・91%精製・94%焼結永久磁石は2024年の磁石用レアアースに限定される。2025年10月に発表された輸出管理拡大措置の一部は11月から1年間停止された。ABBの110~450kWのSynRMは商用の一例であり、TSMCでの採用実績を示すものではない。